無言の誘致

ルイス・ブニュエルの『昼顔』を観る。
映画としてものすごく良かったが、とりあえず、エロについて考えさせられた。
前置きとしてあらすじを述べる。
美しき若妻・セヴリーヌは夫と円満な関係を築きながらも彼とのセックスに踏み切れない。しかし、彼や彼の友人と激しく関係することを夢想している。彼女は激情の解決を求めて娼館へと足を向けることとなる……。
官能の表現において全く露わな乳房を映さないのであった。裸体の前面は全くフレームに入ることが無かった。ぼくがこの事実に気付いたこと自体、ひとがセックスとして求める要素が乳房や性器に集中していることの証明となりうる。尻に全てを見出すというタイプはかなり少ないだろうと思う。「背中しかいらない」というタイプの人がいたら、ばっちり時間を設けて話してみたいぐらいだ。

「言わないで言う」ことはすごくイヤラシイ。見事だと思う。常に下着が守り、それが解かれれば映されもしなくなる乳房。見えない、しかし晒されているという認識が齎す官能の表現にやられた。明言化は必ずしも分かりやすくない。人間の感情の表出を撮るのに顔だけを追う必要は無くて、それを指先や脚に求めることだって出来る。努力と工夫さえあれば。何たって、登場人物の全ての感情を指先に躍らせた演出を見てしまったわけだからそういうことが言える。